見上げガール



「和田、見上げ入道って知ってるか?」
「何だよそれ。」
「昨日妖怪図鑑見てたら載ってたんだ。」
「何でそんなもん見てんだよ。そんな暇有るなら推理小説でも読めって、面白いから。」
「昔、ホームズ読んだときに奴の態度が気に食わなかったからな。ああいうの読む気が起きねーんだよ」
「あいつの態度は確かに腹が立つけど、最近のはそうでもねーって。米澤穂信とか北山猛邦とか読めよ。」
「今度貸してくれたら読んでやるよ。」
「じゃあ明日持ってくるわ。」
「…何の話してたっけ?」
「推理小説の…」
「いや、その前。」
「ああ、見上げ入道の話か。まだ何も聞いてねえけど。」
「そういやそうだったな。…まあ面白くない話だしいっか。」
「気になるから話せ。つーかお前との話に面白さなんて期待してねーよ。」
「お前時々ひでえ事言うよな。…まあいいけどよ。見上げ入道って妖怪は妖怪の総大将とも言われているんだけどよ。」
「妖怪の総大将ってぬらりひょんじゃなかったか。」
「諸説あるんだろうよ。まあその妖怪はとにかくデカくて、足から上に向かって見ようとすると大きくなり続けるんだとさ。」
「大きくなるだけなら害ないだろ。」
「いや、…確か、デカくしちゃった奴は数日後に死ぬんだよ。」
「怖っ。」
「まあ、一応対処法もあって、地面に伏せて『見越した!』とか言えば消えるらしいぜ。」
「ずいぶんメンタルが弱い妖怪だなあ。」
「…何でオチ言うんだよ。」
「これがオチだったのか…。期待した俺がバカだった。」
「さっき期待してないとか言ってなかったか?」
「俺がちゃんとしたことを言うはずないだろうが。」
「威張んなよ…。」
「メンタル弱いといったら、うちのクラスの三越もすげーメンタル弱いんだよ。」
「三越なんてうちの学年に居たか?」
「去年同じクラスだったろーが。」
「そういやそんな奴いたっけな…。」
「学校に今、壊れてる自販機あるだろ。アレが完全に壊れる前に三越が小銭入れたんだけど、飲み物出てこなかった上に金も帰ってこなかったんだ。あいつはどこに報告すべきかも分からなかったうえに、金もなかったらしく、泣きながらそこを離れていったんだ。」
「…つーか何でそれ知ってんの?」
「ずっと見てたからな。」
「相変わらずひでえ性格してんなあ。」
「俺が女子にまともに話しかけられる訳がないだろう。」
「え、三越って女子だっけ。」
「ひでえのはお前だ。」
「人名とかおぼえるの苦手何だよ。」
「むしろお前はなにが得意なんだ。」
「俺は帰宅部だけどスポーツは結構得意だぞ。」
「あ、三越だ」
「どれ?」
「あそこにいる奴。」
「ああ、あいつかあ。」
「いや、あいつあんなに小さかったか?」
「遠いから小さく見えるんじゃね?」
「いや、あいつ190以上あるし。周囲との比率的におかしいだろ。」
「あいつそんなにデカいの?俺より大きいじゃん。」
「うーん、やっぱり顔立ちは三越そっくりなんだよなあ。妹かなあ。」
「いや、でもウチの制服着てね?」
「確かに。」
「ちょっと声かけてくるわ。」
「顔も知らなかったのにか?」
「いいんだよ別に。おーい、三越。」
「ん?あいつ泣いてね?」
「和田君と…佐藤君?ひぐっ」
「どうして泣いてんの?」
「泣いてなんかないもん。…ぐちゅっ。」
「じゃあその涙は何なんだ。」
「後、お前縮んでねえ?」
「縮んでなんかないもん!…ぐずっぐずっ…。」
「「!」」

(女の子を泣かせてしまった。)

「…なあ佐藤、大変だったなあ」
「…そうだな。」
「高校生の内に女を泣かせるとはおもわなかったぜ。」
「それよりも俺は高校生の女子があんな泣き方するほうがびっくりだ。」
「だからさっきから謝っているじゃない!」
「あー、すまんすまん。いまのは俺が悪かった。」
「じゃあ俺等は疲れたし帰るわ」
「待って。私が何なのか聞きたくないの?」
「いや、正直に言ってお前が神に呪われてようが、化け猫だろうがどうでもいい。どうせ俺には関係ねーし。…じゃあな。」
「和田、また彼女泣きそうな顔してるぞ。」
「え。」
「…ひぐっひぐっ…」
「…ごめんやっぱりすごい聞きたい。」

「見上げ入道って知ってる?」
「「知ってる。」」
「…何でそんなマイナーな妖怪を。」
「さっきこのアホが俺に教えやがったからな。」
「アホ言うな。」
「まあお前の言わんとすることは大体分かったわ。」
「「!?」」
「まああくまでも予測だから合ってるか分からんけど、間違ってたら修正してくれ。」
「…分かった。」
「とりあえず結論から言うと、お前は見上げ入道に近い何かってことだよな。」
「…そうなの?」
「正確には、私のご先祖様が見上げ入道なんだけど。」「妖怪なんて実在するんだなあ。それじゃあ何?九尾とかもいんの?」
「いや、家族以外に会ったことないから…」
「だろうな。」
「何でそこまで!」
「いや、さすがにこれは勘。」
「なんだ…。」
「その程度でがっかりすんな、悪いことした気分になるから。…話を戻そう。それで落ち込んだときとかに縮む…いや、幼児退行する。本式の見越し入道も、実際のところは消えたんじゃなくて、へこませられて、ただ縮んで別人に見えただけなんだろう。」
「死ぬ云々の話は?」
「関係ないだろ。そんな不可解な体験をした後に死んだ奴がいたら結びつけたくもなるだろう。」
「すごい…ここまで見抜けるなんて。…でも、和田君って成績良かったっけ?」
「…成績の話はすんな。…悲しくなるから。」
「じゃあ俺はここで。」
「おう。」
「ばいばい。」
「…」
「…」
「それにしてもさ、」
「?」
「和田君ってすごいよね。」
「推理のことか?あんなの半分以上勘みたいなもんだ。むしろ当たってびっくりだよ。」
「いや、そうじゃなくてさ…。精神的な強さ、って言うのかな。どんなことが起きても動じなさそうじゃない。」
「いろんなものに関心が無いだけだ。寧ろ欠陥だ。」「ほら、そういうとこ。私はマイナス方向に感情の振り幅が大きくて、よく泣くし、ちっちゃくなっちゃうの。」
「そうなのか。」
「しかも妖怪として中途半端で、大きくはなれないし。今はまだごまかせているけど、いつかはばれちゃうんじゃないか、ばれちゃったら誰も受け入れてくれないんじゃないか、って不安で。」
「…」
「だから、今日は本当に嬉しかった。和田君も佐藤君も私のことを気味悪がらずに受け入れてくれたんだもん。」
「…」
「あ、私ここから違う道だから。じゃあね。また明日。」
「おい。」
「?」
「…推理小説に興味はあるか?」
「何で?」
「あるなら明日貸してやるよ。」
「…うん。じゃあお願いするね。」

「大切なことほど案外言えないもんだな」

「こっぱずかしいからだよな。やっぱ。…まあいいさ。」

「俺たちの青春はまだ始まったばかりだからな。」

完?




「見上げガール」
hetare@PCN・作
妖怪【見上げ入道】





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